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赤い傘のこと
 

長野市にある、あの有名な傘屋さんを
訪れました。
道に迷い迷い、何人かの方にお聞きして
やっと辿り着きました。
心高まる気持ちを抑えつつカタカタと
ガラスの引き戸を押し開けると、
そこには傘が床から天井まで所狭しと
差し人を待つかのように並べてあります。

「ごめん下さい。」
お声を掛けると奥から
「はいはいははい。」と
元気なお声が返ってきます。
そうです、この方がご主人でもあり、職人さん。

お話上手でお勧め上手。
でも2年間も傘を探して、探して
待っていた私にとっては至福の時。

色々見せて頂いていたら、
一本、レースで縁取られた紺の
小さな小さな傘が目に入りました。

「こちらは古いものですか?」
何気なくお聞きしました。
「こんなの博物館もの。だめなの、だめなのこれは。」と、
言いつつ見せていただきましたが、
御主人様はポロリとおっしゃいました。
「若いお嬢さん達にはこんな古いほうが良いって、可愛いっていうんだ。
でも、わかんね。だってオイラは今でもいっーぱい新しいのつくってんだ。」

感激というか、衝撃というか、感動というか。
言葉を失ってしまった私たちにご主人は続けます。

「昔のはね、傘の骨の部分を3か所留めしてたんだ。
もちろんこれが普通。でもそれじゃ長く使ってもらえないから、
今は5か所留めしてんだ。生地も端っこみてごらん。
周りは普通、ミシンで仕上げるけど、それじゃ弱いしきれいじゃないから
ミシンで仕上げる必要がない上等な生地を使ってんだ。
ほら、きれいでしょ。」うんぬん。

最後にこう付け加えて下さいました。
「10年後壊れたらまた、その傘みてやる。
10年は安心してつかいな。10年後ね。」と。

私にとっは予想以上に値が張る傘となりました。
それでも2年は探してきて、うまくいけば
10年使える上等な傘に出会ったのです。
そして何より、御高齢という年齢でもありながら
作り手さんは長い間、試行錯誤しながら
納得のいく傘を作られ、これなら10年は大丈夫という、
一本の傘を作られた。

たとえ、たとえ、10年使えなくてもそんな過程が
一本のこの赤い傘に込められているならば
それは使い手にとって極上の宝になると
思いました。

私たちのお店はこうなれるかな。
一本の赤い傘が心を熱くしてくれました。